システム内存在の不可能性の認識、及び全体性の恣意的生成の可能性について
誰もいない交差点で信号が青から赤へと変わる。どうやら止まれと言っているらしい。もちろんそんな気などさらさらなく、構わずに突っ切って渡る。車は一台も通らず、また信号無視をとがめる者もいない。ルールとは本来秩序と無秩序を分ける境界のようなものだが、それも他者あってのことだ。参加者なきシステムのルールに対する固執は、偏執的な自己満足でしかない。
朝の四時四十五分。まだほんの少しだけ薄暗い街中を悠然と歩きつつ、辺り一面ぐるりと見渡してみる。もちろん人っ子一人いやしない。いわば「関係性を欠く見慣れた場所」、もしくは「切り離された空間」を悠長に彷徨い歩く、そんな感じだ。間違いない。意味もなくそんなことをする奴は確実に頭がおかしい。どうかしている。主観的に見ても客観的に見ても夢遊病者以外の何物でもない。しかし、こんなことをして楽しいのかと問われれば、正直ちょっとだけ楽しい。
ちょっとしたお遊びだ。特に意味も無く、朝散歩したら楽しいかな、休みだし普段できないことを満喫してみようかな、という思いつきのもと、“早起き計画”を立てたのがゴールデンウィークの真っ只中だ。ところが目覚まし無しで目覚めてみると、なんと朝の四時半ではないか。これにはちょっと戸惑う。これはいくらなんでも早すぎだ。そんな朝早くに出歩いてる人間は老人か新聞配達か挙動不審者ぐらいだ。しょうがない、二度寝しようと思いかけたその時、ふと思いとどまる。…いや、待てよ。むしろ、この早すぎと言う過剰さは、時間的非日常という意味においてこの“早起き計画”にぴったりではないのか。場所が同じでも時間が違えばそれは普段とは別のものになる。そう考えると何だか急に面白くなってきて、ついノリと勢いに任せて家を飛び出したのが起きてから十五分後のことだ。
朝。そのくせまだどことなく薄暗く、すずめの鳴き声だけがやけにやかましい早朝。
ぼんやりとコンビニの光が浮かび上がって見える。中を覗いてみるが客は一人もいない。いや、客どころか店員さえ見当たらないのはなぜだろう。トイレにでも行っているのか、もしくは棚の影で商品でも並べているのか、分からないまま通り過ぎる。
向こうから人が歩いてくる。案の定老人だ。しかしなぜだろう妙に気まずい。こちらの確信犯的おふざけ行為に対する後ろめたさとでも言おうか。もしくは早朝散歩をしていることに対する一種の共犯者意識なのか。なるべく顔を合わせずにやり過ごす。
五時。さいたまスーパーアリーナに来てみた。普段人で賑わう場所ほど、無人の時とのギャップがあって不思議な感じがする。たった数時間違うだけなのにちょっとした別世界だ。
普段気にも留めないオブジェがやたらと目に入る。薄明かりの中で、人の目に晒されることなくただひっそりと佇むその姿は、どこか怪しげな光を放ち、露骨なまでにその存在感を剥き出しにしている。そこには普段見えることのない何かが宿り、華やいでいるような、そんな感じがした。
しかしそんな特別な時間も、ゆっくりと、ゆっくりと終わりを告げていく。曖昧さ漂う夜の匂いは徐々に消えてゆき、すべてのものがはっきりとした輪郭を持つ明るくて眩しい世界へと移行していく。宿っていたものは消えて無くなり、ただ物質だけが眼前に取り残されていくのを見た。その光景はどこか寂しげでもあり、また逆に、安堵に包まれていたりもするのだった。
東の空から昇る日の光が全てを銀色で覆い尽くし、新たな一日を始めようとしていた。
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自己紹介:
★座右の銘
どんな愚行や自傷行為も、面白ければすべてよし
★本ブログのモチーフ
システムの中にいるものは決してシステムそのものを変革することはできない。システムとは、システムの内外を隔てる境界の存在のことであり、変革とは境界の外から内部を指し示す恣意的行為である。
どんな愚行や自傷行為も、面白ければすべてよし
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システムの中にいるものは決してシステムそのものを変革することはできない。システムとは、システムの内外を隔てる境界の存在のことであり、変革とは境界の外から内部を指し示す恣意的行為である。
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